
今週一週間、フィンランド全土でははっきりとした冬の訪れが感じられました。ラップランドでは、昨晩なんとマイナス25度まで下がった地域もあったとか。
私の住むユヴァスキュラでは、週明けに初雪を迎えたかと思うと、昨日一日降り続いた雪のおかげで、今日は快晴・マイナス気温の真っ青な冬空の下、きらきらと白銀の世界がきらめいています。まだこの時期の雪が根雪となる可能性は少ないですけどね。ちなみに日本との時差が7時間となるウィンタータイムは明日28日からです!
さて、そんなわけで少しでも体の温まる話題を…ということで、本日はタイトルの通り「
フィンランドに現存する最古の公衆サウナ」についてご紹介したいと思います。
そもそも、「公衆サウナ」というのがどんなサウナのことを指すのか、からお話を始めましょう。
簡単に言えば、「公衆サウナ(Yleinen sauna)」とは、1800年代後半から1970年代ごろまで、フィンランド都市部の街角で営業していた「街のサウナ屋さん」のこと。せせこましい都市部住まいで、家やアパートにサウナなどなかった市民たちが、お金さえ払えばここで気軽にサウナ浴をすることができたというわけです。今も昔も No Sauna No Life!! な、フィンランドならではのこのビジネス…流行背景といいその役割といい、まさに日本の「銭湯」そっくり!そう考えると、なんだか親近感が湧いてきませんか??
ただやはり銭湯の歴史と同じように、公衆サウナビジネスは、時代の潮流の中でやがて衰退への運命をたどることになります。
ヘルシンキに今も残る公衆サウナKotiharjun saunaの更衣室。古びた木製のロッカー、腕に通すゴムの通った鍵…日本の銭湯のそれを思い出さずにはいられません!公衆サウナがもっとも流行っていた、いわゆる黄金時代は戦前1930年代から1960年代ごろまで。例えば1939年には、あの小さなヘルシンキの街だけで、なんと122軒もの公衆サウナがひしめいていたといいます。戦後の都市部には、街の復興と経済活性のために多くの(裕福とは言いがたい)労働者が集まってきており、公衆サウナはそんな労働者たちの一日の疲れを癒す重要な施設だったというわけです。
ところが同じく60年代ごろから、都市部の小さな家やアパートにも徐々に所有サウナが設置されるようになり、「個人サウナ」が主流になるとともに、当然ながら公衆サウナのニーズは急降下。保温エネルギー維持にかかるコストの高さからも、経営困難に陥った公衆サウナが、街角から次々に消えてゆきます。
営業時間になると、レトロなネオンが灯る日本でも、例えば東京では現在一週間に一軒のペースで銭湯が店をたたんでいると言われますが、それでも都内にはまだ800以上の銭湯が現存している事実に驚かれる方も多いのでは。
それに対して、フィンランドの首都ヘルシンキでまだ健気に営業を続けている、古き良き公衆サウナの数は…現在なんとたったの
3軒だけ!!国内全部をあわせても10軒も行かないのではというくらい、公衆サウナは今や絶滅の危機にさらされているのです。ただその一方、もうまもなくヘルシンキのハカニエミ地区に、全く新しい公衆サウナがオープンするとの話題もあって(しかも設計担当は、日本人デザイナーのつぼいねねさんと、建築家の夫さんTuomas Toivonenさん!)、今まさに公衆サウナがにわかに脚光を浴び始めているのも確かです!
さてでは、今回私がレポートする「国内に現存する最古の公衆サウナ」の所在はと言いますと…首都ヘルシンキや古都トゥルクではなく、フィンランド第二の都市タンペレにありました!

フィンランドがまだロシアに支配されていた1906年創業、6年前にちょうど100週年を迎えたという、タンペレ郊外の公道に面した何気ない一角に佇む、
ラヤポルティン・サウナ(Rajaportin sauna)。これぞ今や、フィンの公衆サウナ業界の堂々たる最長老であります。

もちろん100年前からこれだったということはないでしょうが、これぞ北欧デザインの先駆け?レトロな色調に風格を感じる、日本の湯屋の暖簾代わりのライト看板。

このラヤボルティン・サウナの敷地内には、メインとなる男女別サウナが入った建物のほかに、サウナ上がりのお客さんがバスタオル一枚で入店できるカフェ、そしてマッサージ師の待機するヒエロラ(hierola)という施術室が収まっています。そしてその建物同士の間の通路や中庭には、サウナで火照った体のクールダウンがてら、バスタオルを巻いたお客さん同士がドリンク片手にコミュニケーションを楽しむベンチ、グリルスペースなどが設置されています。

そしてこちらが、男女別の入口扉の手前にある会計場所、銭湯で言うところの「番台」です。ほとんど相手の顔も見れないこの小窓から、おじさんとやり取りしてお金を払います(料金などは一番下の店舗情報をごらんください。銭湯よりは相対的に割高で、平日料金と休日・休前日料金に分かれています。子供料金もあります)。バスタオルは基本的に皆さん持参しますが、有料レンタルも可能です。まや、サウナといえば!の、体をしばくために白樺の葉を束ねたヴィヒタ(Vihta)も、4ユーロでレンタルできるほか、各種ドリンクも(ビールなどの低アルコールも)かなりお安く販売されております。

お金を払い、女性用入り口をくぐると、このような、一見ただの上着架け用?と思われる狭いスペースに通されます。でも、じつはここがもうれっきとした「脱衣所」。当時からのスタイルを守るこの伝統公衆サウナでは、ヘルシンキのように個人的なコインロッカーすらないんですね!!まあ、おそらく当時は入浴料以上の貴重品をわざわざ持ってくる人はいなかったのだろうし、(そうはいってもここはフィンランドだし)あとはもうお客さん同士の信任性に委ねるしかない、ということでしょうか…。立ち寄られる方は、くれぐれも身軽でお越しください。この部屋も小窓で番台と繋がっているので、なにかあればお店の人との交渉も可能です。
先客さんの作法を真似て潔くこの部屋で脱衣を済ませ、エチケットとしてベンチに敷くためのミニタオルだけもって、いよいよ奥の古びた扉の向こうにまつサウナルームへと繰り出します。扉手前の手書きの注意書きには、「浴室内での毛染め禁止」など、日本のお風呂屋さんを彷彿とさせる訓示が列挙されているのもなんだか面白い(笑)

トイレ前のレトロな体重計も、これまた日本の銭湯チックで趣きがありますなあ。
さて、ここからはもちろんカメラを持ち込むこともできませんので、適宜お店のHPで公開されている(きっと裸のモデルさんたちにも許可を得られているのであろう)写真をお借りしつつ、その全貌を公開いたします!
Rajaporttisaunaウェブギャラリーより
重い扉を開けた地点から見ると、すぐ正面の半地下、にベンチ付きのいわゆる「かけ湯」スペースがあり、サウナ室は、右手の階段を登った奥になります。これは明るく写してある写真なので一見して状況が飲み込めますが、実際は(すくなくとも女子側)には天井で一つ白熱灯ランプがほんのりと灯っているのみで、とにかく薄暗く、素っぱだか洞窟探検のような心境に追い込まれます(笑)滑らないよう、手すりを頼りに慎重に身動きをとるようにします。
かけ湯スペースには、最初だとやや温かいかなと感じるくらいのぬるま湯を張った小さな浴槽があって、そこに取っ手つきの洗面器がいくつか放り込まれています。しつこいようですがあくまで伝統スタイルに忠実なこのサウナでは、何を隠そうシャワーなんて文明の利器も一切ございません。この浴槽のぬるま湯で、かけ湯も体洗いもすべてやりくりするのです。
そして暗闇の階段を登った先には…お待ちかねの、サウナベンチ!
Rajaporttisaunaウェブギャラリーより
が、ここもまっくらで、もはや話し声で他人の存在を認識し、手探りで空きスペースを確認し、おそるおそる陣取るしかありません(笑)スペースは決して大きくはなく、座れても10人そこらではないかと思います。
Rajaporttisaunaウェブギャラリーより
サウナを暖めているオーブンは、もちろん昔ながらの薪炊き(余談ですが、日本でも最近は薪焚き銭湯がすくなりましたねえ…お湯のまろやかさがガス炊きとは全然違うのですよ!)。定期的にお店の人が薪をくべに来ます。じつはこのサウナオーブンは男女個室の中央に柱のようにでんと構えており、壁でこそ仕切られているけどつまりは共用。ただ、オーブンの上の焼け石に水をかけるのは、ここでは暗黙的に男性客のほうがその役割を担うのだそう。
あとはもう特筆すべきことすらない、質素で、シンプルで、視覚以外の感覚器を研ぎ澄ましてただじっと熱に耐えるためのサウナ。じんわりと、体の芯の芯部まで熱い蒸気が染みこんできます。
無言でその熱波に身をおくのも良いですが、公衆サウナならではの楽しみはやっぱり、見ず知らずのお客さんとの裸の身を寄せあってのお付き合い。そこでは自然と声がかかって会話が生まれ、意気投合してしまう嬉しい瞬間があります。私がここを訪れた時に先に座ってらっしゃったのは、お一人はもう何十年もここに通い続けているという地元常連客のおばあさん、そしてもう一人は、とにかくここのサウナが好きで、ヘルシンキから定期的にわざわざやってくるのだという中年の女性。ふたりとも口を揃えて、ここがフィンランドのベストサウナだと主張されていました。日本の銭湯と同様、公衆サウナの栄光時代を知る世代の方々にとっては、やっぱりいつまでも最高のリラクゼーション&コミュニケーション空間として体が覚えてらっしゃるのでしょうね。
そんなわけで女性ルームの方は、あとからやってきた方々を含めてさすがにヤングレディのお客さんはいらっしゃいませんでした。自宅やコテージで、一人のんびりと、あるいは家族知人と入るサウナの愉しみのみを知る世代にとっては、好き好んで赤の他人と古びたサウナにこもる…というのはちょっと理解し難いものなのかもしれません。でも、「古き良き」には懐古以上の思いがけないアイデアや美点だって残っているものです。
Rajaporttisaunaウェブギャラリーより
すでに日暮れのころ、私も小休憩にとバスタオル一枚を体に巻きつけ、ドリンク片手にお店の中庭に出てゆくと、ちょうどこの写真のように、多くのお客さんがやはりタオル一枚の格好で涼みに来ていました。あきっぱなしの門のすぐ外はごく普通の住宅街だというのに!
常連客も一見さんも、いわば互いに他人同士が、やましい感情一切抜きに、全身から湯気を立ちのぼらせて会話をはずませている、ちょっぴり奇妙でなんとも平和な光景。
フィンランドでは昔から、サウナの中だけは身分も国籍も性もすべて平等で、誰もがその快楽を一緒に享受できて、互いを白樺の葉で叩き合い、コミュニケーションを楽しむ場だったのだとよく言います。
日中に身を置く社会のなかでは実現しそうにない、先入観や肩書きには支配されずモラルには守られたユートピア。その名残が、今でもフィンランドの都市の街角にひっそりと息づく公衆サウナの姿といえるのかもしれません。
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さて、実はこの日のサウナ浴後、私はさらに施設内にあるマッサージ室を予約してあり、フィンランドの伝統マッサージも体験してまいりました!
伝統といっても、施術を担当してくれたマリさんいわく、これぞフィンランドという確固たる療法ややり方があるわけではなく、昔から他国のやり方を取り入れつついろんな地域で「これはいい!」と実践されてきた方法を集めたプラン、という感じのようです。
とりわけ、生活の場でもっとも清潔な場所ということで古来フィンランドでなされてきた療法のひとつが、いわゆるカッピング(吸玉)療法。小さな耐熱容器を真空状態にして肌に吸着させ、しばらく固定させて悪い血を吸いだしたり、吸着状態で肌の上をぐりぐりと動かし血行に働きかけたりする方法で、アジアでもお馴染みの手法です。今でこそ吸着容器にはシリコンが使われるそうですが、それこそかつてフィンランドでは、動物の角を使ってこれをやっていたそうで、吸引した悪い血は人の口で吸い出していたとか…。
というわけで、フィンランド版カッピング療法初体験!!

(すみません、私の見苦しい生足ご容赦ください)
写真ではわかりづらいかも知れませんが、マリさんが片手に炎の上がる脱脂綿を、片手に例の吸着容器を持っていて、容器をさっと火にかぶせて真空状態にし、瞬間的にびたっと私の肌に押し当てます。その吸着力たるや、すぐに真空管内の肌がまっかに盛り上がるほど。それを、ぐりぐりっと上下左右に移動させては、ぽんっと肌から離して圧を抜く、の繰り返し。
正直、容器が自分の肉に吸い付いて移動している間は、涙を目に湛え悲鳴をあげずにはいられない激痛を伴います。とりわけ、肉付きのうよいあたりをやられるときの痛みと言ったら…思い出したくもない!!(笑)
ただ、そのあとには(他のたいぷのマッサージやツボ押しも併せてやってくれるのですが)、驚くばかりに、体がスカッと楽!!!弦楽器を弾くので普段から慢性的に肩が重く、またここのところためこんでいた身体の倦怠感を、(絶叫とともに)軽やかにそぎ落としてもらった気分です。1時間40ユーロ(4000円)と日本のマッサージ屋と比較しても割安なこのフィン流荒療治(笑)、ぜひサウナとあわせて一度ご体験あれ!
では最後に、本日ご紹介したラポルティン・サウナの営業情報を。ムーミン博物館だけではない、タンペレ観光の新名所となることを期待しつつ!
Rajaportin sauna
住所 Pispalan valtatie 9, 33250 Tampere
電話 +358 03 222 3823
営業時間 月・水曜18.00-22.00 / 金曜15.00-21.00 / 土曜14.00-22-00
(併設カフェは月・水曜16:30-22:30 / 金曜13:30-21:30 / 土曜13:30-22:30)
サウナ浴料 月・水曜5€ / 金・土曜8€ / 6-15歳児2€ / 5歳以下は無料
ウェブサイト(英) http://www.pispala.fi/rajaportinsauna/index.en.php